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宇都宮地方裁判所 平成8年(行ウ)4号 判決

栃木県鹿沼市貝島町四七二番地七

原告

高橋比呂志

栃木県鹿沼市東末広町一九三四番地二四

被告

鹿沼税務署長 山口廣男

右指定代理人

高木和哉

山岡千秋

平野俊夫

池田勝吉

手塚俊文

羽石研造

田中昇

山田文恵

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成六年五月一七日付けでした、原告の平成五年分の所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、昭和六三年一二月一〇日、住所地に居宅(以下「本件家屋」という。)を新築し、同月一八日、これを居住の用に供した。原告は本件家屋を取得するに当たり、同年八月三一日に栃木県都市職員共済組合(以下「組合」という。)から五〇〇万円、同年一〇月二六日に栃木県労働金庫(以下「金庫」という。)から二〇〇万円、昭和六四年一月三日に住宅金融公庫(以下「公庫」という。)から九一〇万円、合計一六一〇万円をそれぞれ借り受けた。

2  原告は、昭和六三年分の所得税につき、組合及び金庫から借入金に係る住宅取得等特別控除の適用を受けたが、公庫からの借入金については、消費貸借契約の締結日が居住開始日の翌年であったため、年末残高等証明書が発行されず、右特別控除の適用を受けることができなかった。

原告は、平成元年分ないし平成四年分の各年分の所得税については、組合、金庫及び公庫からの借入金に係る住宅取得等特別控除の適用を受けた。

3  原告は、平成六年二月一五日、平成五年分の所得税につき、住宅取得等特別控除の額を七万五四〇〇円(平成五年一二月末日における公庫からの借入金残高七五四万七六八七円の一パーセントに相当する額)、還付されるべき税額を七万五四〇〇円として、確定申告した。これに対し、被告は、平成六年五月一七日、本件家屋を居住の用に供した日の属する年からすでに五年を経過しているから、住宅所得等特別控除の適用はないとして、還付されるべき税額を〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税を七〇〇〇円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

なお、原告の平成五年分の所得税に係る確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯は別表記載のとおりである。

二  争点

原告の平成五年分の所得税につき、租税特別措置法(平成元年法律第一二号による改正前のもの。以下同じ。)四一条一項の住宅取得等特別控除の適用があるか否か。

1  原告の主張

租税特別措置法四一条一項を単純に文言どおり解釈すると、住宅の取得等に係る消費貸借契約の締結日が住宅を居住の用に供した日の属する年の翌年となる場合は、結果として住宅取得等特別控除を四年分についてしか受けられないことになり、居住開始日と消費貸借契約の締結日が同一年にある場合に比して不当に差別的な取扱いをすることになる。したがって、右条項は、「ただし、住宅取得のための借入金で、その消費貸借契約の締結日が居住を開始した日の属する年の翌年となるものがある場合には、当該借入金については、その消費貸借契約の締結日の属する年から起算して五年間、控除を受けることができる。」とのただし書きを加えて解釈すべきであり、そうでない限り、平等の理念に反し違憲無効である。

2  被告の主張

租税特別措置法四一条一項に定める住宅取得等特別控除は、住宅を居住の用に供した日の属する年以後五年間の各年分の所得税について認められるものであるところ、原告が本件家屋を居住の用に供したのは、昭和六三年一二月一八日であるから、原告の所得税につき右特別控除を認めうるのは、昭和六三年分ないし平成四年分の五年間の各年分についてであって、平成五年分についてはその適用の余地がない。

第三争点に対する判断

1  税法の解釈、適用については、侵害規範としての性質上、法的安定性が強く要請されるから、原則として文理解釈によるべきであって、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない。とりわけ、租税特別措置法四一条一項所定の住宅取得等特別控除が、持家取得の促進を目的として創設された特別の減税措置であることにかんがみると、右規定の適用に当たっては、一般納税者との間の課税の公平、中立の見地から、厳格な解釈が要請されるというべきである。

2  租税特別措置法四一条一項の住宅取得等特別控除は、居住者が居住用家屋を新築し、又は新築若しくは既存の居住用家屋を取得するなどして、昭和六一年一月一日から平成元年一二月三一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得等の日から六月以内に居住の用に供した場合に限る。)において、その者が当該住宅の取得等に要する資金に充てるための借入金又は債務の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後五年間の各年のうち、合計所得金額が三〇〇〇万円以下である年について、その適用が認められるものである。

これを本件についてみるのに、原告が本件家屋を居住の用に供した日は、昭和六三年一二月一八日であるから、原告につき住宅取得等特別控除の適用を認めうるのは、昭和六三年分から平成四年分の各年分の所得税についてであって、平成五年分の所得税につき右特別控除の適用の余地がないことは一義的に明らかである。

原告は、消費貸借契約の締結日が住宅を居住の用に供した日の属する年の翌年となる場合は、当該消費貸借契約に関しては、控除期間の始期を当該消費貸借契約の締結日の属する年と解すべきである旨主張するが、前記1の説示に照らし、原告独自の見解であって採用することができない。

3  なお、課税要件等の定立については、政策的、専門技術的な判断を伴うため、立法府の合理的な裁量に委ねられるべきであるが、住宅取得等特別控除の目的に照らし、控除期間の始期を居住の用に供した日の属する年と定めたことに格別不合理な点を見出すことはできないから、租税特別措置法四一条一項の違憲無効をいう原告の主張は理由がない。

4  以上によれば、原告の平成五年分の所得税につき、住宅取得等特別控除の適用は認められないから本件更正は適法であり、かつ、本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項に基づいてなされた本件賦課決定も適法である。

5  よって、原告の請求は、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官 島内乘統 裁判官 石田浩二 裁判官 角井俊文)

別紙

平成五年分 課税処分等の経緯

〈省略〉

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